“ハニーの天体”と渦巻銀河IC 2497
Galaxy IC 2497 & Hanny's Voorwerp
2011_01_10
 ハニーの天体(Hanny's Voorwerp)と呼ばれる緑色に輝く宇宙の“染み”で恒星が誕生しているという意外な事実が,ハッブル宇宙望遠鏡の画像から明らかになった。
 この奇妙な天体は、2007年に発見したもので,”voorwerp”はオランダ語で物体を意味する。
 ハニーの天体は天の川銀河ほどの大きさだが,銀河ではなくガス雲で,地球から約6億5千万光年離れた渦巻銀河IC 2497の近くにある。
 ハッブルが今回撮影した画像は,ハニーの天体をこれまでで最も鮮明に撮影したもので,この画像から,ハニーの天体の中の小さな領域にあるガスが崩壊して恒星が形成されていることがわかった。中でも最も若い恒星はわずか数百万年前に形成されたと考えられる。
 これらの星団は局所に集中しており,幅わずか数千光年の範囲に集まっている。この領域では数百万年に渡って大量の恒星が形成されてきた可能性がある。これらの恒星は暗いため,これまでは周囲のガスの明るい光にかき消されていた。
 ハニーの天体の電波放射を分析した過去の研究で,この天体はIC 2497を取り巻く長さ30万光年の帯状のガスの一部であることがわかっている。“潮汐力の尾”という意味の“タイダルテール”と呼ばれるこの帯状の構造は、約10億年前にこの渦巻銀河IC 2497が別の銀河と衝突した際にできたものである可能性が高いと推測される。
 このタイダルテールのうち可視光で光って見えるのはハニーの天体の部分だけで,それも最近になってIC 2497の中心部にある超大質量ブラックホールからの放射を浴びたために緑色の光を放つようになったと考えられる。
 銀河の衝突によって銀河の中心部に大量の恒星とガスが入り込んだことで,ブラックホールが物質を大量に吸い込むようになり,その結果ブラックホールの両極から放射線のジェットが噴き出し始めたと推測できる。
 クエーサーと呼ばれるこの活発に活動するブラックホールはハニーの天体が可視光で輝く原因となっただけでなく,このブラックホールから噴出したガスの流れとハニーの天体との反応が星形成を引き起こしている。
 このクエーサーはすでに活動を止めているため,このメカニズムが解明されたのは最近になってX線観測が行われてからだった。このクエーサーはわずか20万年前に活動を停止したため,私たちは直接観測するタイミングを逃してしまった。現在(ハニーの天体で)見られるのはクエーサーの名残にすぎない。
 この研究は、ワシントン州シアトルで開催中のアメリカ天文学会第217回会合で2011年1月10日に発表された。(Astrro Arts 訳)
 
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